一谷嫩軍記 須磨の浦組討の場


 

あらすじ

 

 頃は弥生の初め、月のない暗闇を熊谷の一子小次郎が初陣の先駆けに一人で平家の陣門まで駈けて来た。一番駈けは我こそと心は矢竹にはやっても陣門の固めはきびしく、こうするうち門内より聞こえてくる管絃の音。「流石に平家は都人やさしい心根」と小次郎は感慨にふけっている所へ、背後より大声あげ出て来たのは、源氏の武士でも嫌われ者の平山武者所。若い小次郎を煽動して陣中へ斬り入らせる。

 熊谷の次郎直美は我が子の先陣が心配とここまで来たが、小次郎一人で陣内に斬り入ったとの事に猛然と斬り込む。平山は日頃から邪魔な熊谷親子はもう討死と決ったと喜ぶとたん、案に相違して熊谷が我が子を小脇に陣門より脱出してきて「粋小次郎手負うたれば養生加えに陣所へ送らん」と叫んで去って行く。

 平の時忠の息女玉織姫は今朝より合戦で見失った夫敦盛の行方をたずねて海辺まで出て来たが、かねて横恋慕している平山に捕えられてしまう。平山に妻になるかどうかと無体の仕業にたまりかね、女の細腕ながら懐剣取って手向かうが逆に深傷を負わされてしまう。無官の太夫敦盛は味方の船の後を追って馬上のまま、波のまに落ちて行く時、後より熊谷が扇をかざし「オオオオ」と呼び止め、やがて両人は激しく斬り結ぶが、遂に武器を捨て組んずほぐれつの争いになり、やがて熊谷が敦盛を組み敷く。よくよく見れば我が子小次郎と同年配の美少年。腕もにぶって討ち取る気になれず「早くこの場を落ち給え」とすすめる。この時、後の山より平山の武者所が「平家方の大将を組敷きながら助くるは熊谷に二心あり」と呼ばわるので、今は是非なしと涙ながらに敦盛の首を打落す。

 

配役

 

熊谷次郎直実

粋小次郎直家

無官太夫敦盛

平山武者所季重

時忠息女玉織姫

 

浄瑠璃、三味線、付師、演出、裏方